声優の石森達幸さんがお亡くなりになられた。享年81歳。
ミスター味っ子のブラボーおじさん。
喰霊-零-の諫山幽。
機動戦士Zガンダムのフランクリン・ビダン。
他にも様々な役が振り返られるだろう。
そんな私にとって一番思い入れ深い石森さんの役は、
伝説巨神イデオンのドバ・アジバ総司令だろう。


後継の男子が生まれず、その悔しみを抱え生きてきたドバ総司令。
長女のハルルは、男として生まれれば英傑になっていた事に対する悔しみ。
次女のカララは異星人の男に取られ、さらに子を産む事を知った事への悔しみ。
父親としてのエゴとこのエゴによってバッフグランの業をも背負ったドバ総司令。
そんなドバ総司令は石森さんの演技によって成り立ってきたキャラクターだ。

そしてイデオン劇場版-発動篇におけるドバ総司令とハルルのやり取りが特に印象的だ。
妹カララを殺してきたハルルが、父ドバに女としての弱さを一瞬さらけ出した瞬間、
「私はお前を女として育てた覚えはない」と突き放される名シーン中の名シーン。
このドバ総司令とハルルのやりとりは、
富野監督が当時まだ子供だった娘さんが
大人になった時のやりとりを想定しながら描いたものだ。
端的にいえば、ドバ=富野監督で、ハルル=富野監督の長女と見立てられる。
それは富野監督はドバ総司令には娘二人の家族構成という共通点が見いだせるからだ。
だからドバ総司令は当時の富野監督自身の立場を強く反映させたキャラだろう。
富野監督は著書で以下のように語っている。
キャラクターには「嘘八百のリアリティ」を付与することができるし、僕は結果として、父親として考えなくてはならないことについて思考の実験を行えた。
僕の場合、そういうことを意図的にやってみせたのが『伝説巨神イデオン』だった。(中略)
そして僕は『発動篇』の中でドバにこんなセリフを喋らせた。
「私の恨みと怒りと悲しみを、ロゴ・ダウの異星人にぶつけさせてもらう。ハルルが男だったという悔しみ、カララが異星人の男に寝取られた悔しみ、この父親の悔しみ、誰が分かってくれるか!」
もちろん僕の娘はまだ当時まだ小さかったので、僕が本当に二人の娘に対して、そのように思っていたというわけではない。ただ「もし二人の娘がこんなふうに育ったら、どんな気持ちになるだろう」とシュミレーションすることで、ドバのドラマを構築してみたのだ。
だからドバは、父親のリアリティを持つことができたと思うし、一方で僕はシミュレーションを経験したことで「ああ、やっぱりね。子供って親が思ってるようには育たないもんだよね」と、前もって覚悟することができた。
―『ガンダムの家族論』-ワニブックス【PLUS】(2011年)
ドバとハルルのやり取りは、
未来の自分と娘の対話のシュミレーションである事を語っている。
そして「ガンダムの家族論」によれば、
長女が十歳ぐらいになったころには「自分の子供が男の子でなくてよかった」と思うようになった。
―『ガンダムの家族論』-ワニブックス【PLUS】(2011年)
と書いている。富野監督は今では娘二人でよかったと思っているようだ。
そんな富野監督の娘さん二人、長女のアカリさんは演劇集団 円の文芸/演出、
次女の幸緒さんは振付家として道を歩んでいる。
人の考えは変わっていくものである。
さいごに
ドバ・アジバについて石森達幸さんは「演り甲斐があった」と語っているようだ。
本人にとっても思い入れがあるのだろう。
そんな父親の、しかも富野監督の業をも背負った、
ドバ総司令を演じきった石森達幸さんに改めて感謝をしたい。
石森達幸さん、ありがとうございました。
ブラボーおじさんも大好きでした。
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ていうかブラボーおじさんと同じ方だって初めて知った…。
ご冥福を。