幾原邦彦さんがアニメに本格的に帰ってきた。
それだけで私は感無量です。
今期の超!超!!超!!!大本命!!!
新しい世界へ導かれ、
何にもなれない私達は何かになれるのか!
「輪るピングドラム」開幕です!
終始、圧倒的な映像美でした。流石です!!
感想はじめに 12年ぶりの幾原監督の新作
この作品について語る前に「幾原邦彦」さんについての想いを述べます。

(作中でもOPでも象徴的に用いられるりんご。
ウテナが薔薇を回すなら、ピングドラムはりんごを回転させていますね。
あと少年達によると「りんご」は宇宙であり、別世界を行き来する装置でもあるようです)
「幾原邦彦」。この名前を知っているのと知らないとでは
「輪るピングドラム」のという見方・作品の向き合い方が全く違うでしょう。
幾原さんは
「美少女戦士セーラームーン」「少女革命ウテナ」で
90年代のアニメに絶大な影響力を与えた監督さんです。
これらの作品については、多くを語りませんが、
おそらく90年代の「エヴァ」の衝撃に肉薄できた作品の一つが「ウテナ」でしょう。
そして「輪るピングドラム」は幾原監督の12年ぶりの新作です。
まぁ幾原さんはトップをねらえ2の2話やソウルイーターの30話や青い花の
絵コンテはやってましたが、やはり監督作を待ちに待ち焦がれました。
正直、幾原さんはアニメの監督をもうしないのかなと思った事もあります。
政府の援助でアメリカの留学し、漫画原作などを手掛けていたりする中で
もう戻ってこないのかなと思ってました。
そしてやっと帰ってきた。嬉しい限りです。
12年間待っていた甲斐がありました。幾原監督を支えるキングレコード
OPを見た時に嬉しかったのが
「企画:森山敦」とあった事です。

なぜかといえば、森山さんといえばキングレコードの人。
つま「輪るピングドラム」はキングレコード製作なのです。
しかも企画名に名前が挙がっているのは森山さんだけ。
つまりキングレコードの独自企画といっても良いでしょう。
ではなぜキングレコードだと嬉しいのか。
それは「少女革命ウテナ」の製作が「キングレコード」だからです。つまり今でも「キングレコード」は「輪るピングドラム」の製作を受け持ち
幾原さんの企画を支えてくれたのです。
OPでは「企画:森山敦さん」のクレジットがありますが、
この裏にはキングレコード専務取締役の「大月俊倫」さんの影がちらつきます。
大月さんは「ウテナ」のプロデューサーでした(エヴァのプロデューサーでもある)。
さらに森山さんの上司に当たる方といわれています。
大月さんの協力無しでは、キングレコード製作にならなかったでしょう。
つまり大月さんが幾原さんと協力関係にあったからこそ、
この作品は世に生まれ出たと感じました。
この事は私の妄想なので何とも言えませんが、
ウテナもピングドラムもキングレコード製作である事に意味を感じました。
さて お話は? 人は何かになれるのか?
3人の兄弟、その一番下の妹:高倉 陽鞠が病に侵され死んでいくを宣告されるが、
陽鞠は謎の帽子の力によって蘇るというのがあらすじでしょうか。
そして高倉兄弟は生き返った妹の代償としてピングドラムを集めていくようです。

この1話を観ると「何にもなれない人間が、何かになる」という話というのが
作品の根幹のテーマである事を強調しているように思えました。
「少女革命ウテナ」でも主人公のウテナが王子様にあこがれ、
「何かになる・なりたい」存在として描かれていました。
よく考えたら、一回死んでしまった・死の淵にあった高倉 陽鞠が
何かの力によって生き返った事自体が「何かになった」といえるのではないでしょうか。

そして新しく何かになった高倉 陽鞠が高倉兄弟を違う世界に導き
「何か」になろうとさせる物語ではないかと感じました。
「少女革命ウテナ」では、二人の少女が自分の世界を革命していく変遷を描きました。
対して「ピングドラム」では、2人の兄弟の世界を変える内容になるかもしれませんね。
しかしここで重要なのは
「何物にもなれない」と否定から始まっている事ですね。
今の時代は震災にも原発にも政治にも経済にも、何より将来に
とにかく閉塞感を感じる時代です。まさに「何にもなれない」と思ってしまいがちです。
かつて幾原監督は
「未来へ生きていくには、どういったモチベーションであるべきか。
今の大人は若者にどうやっていきていくのかを伝えられていないのでは。
だから作品を通して若者の生き方を視聴者に伝えたい」と言っていました。
幾原監督がこの時代をどう捉え、どう未来への指針を発信していくか。楽しみです。
それにしても「運命」「奇跡」って単語が作品内に出てくると
俄然テンションが上がりますね!!ペンギンの意味は?
この作品で重要な役割を果たすであろうペンギン。
ペンギンが意図するものは何なのでしょうか?


さえ幾原監督は
残念なことに「ウテナ的な作品」じゃないんです。どっちかというと「ペンギン的な作品」なんです(・⊝・)
と語っています。この発言の意図を知る為にも今後も見守っていきたいと思います。
異世界に導く仰天のアニメーション。
私はアニメは何よりも絵を大事にして見ていきたいと考えていますが、
ピングドラムの絵に関しては充実過ぎるぐらい充実していましたね。
「生存戦略しましょうか?」帽子を被った為に謎人格が憑依した事で生き返った高倉 陽鞠ですが、
謎人格の高倉陽鞠が別世界へ高倉兄弟を導きます。




まさにウテナにおける「絶対運命黙示録」。
日常から限りない遠くに導かれた非日常的空間。
アニメはイリュージョンを描いてこそ、真価を発揮すると思うのです。
この一連のアニメーションは素晴らしかったですね。
曲のあまりのハイテンションさも相まって、
音と映像がシンクロした快楽を極限まで表現していたとお思います。
魅力的な美術背景
作品の舞台を彩る、美術背景が凄まじく良かったですね。

いわゆる平凡な日常でも、こんなデザインで着飾ればここまで華やかになれる。
そんな事を感じさせる虚構空間です。
アニメはいかに魅力的な虚構を作り出せるか、ここに掛っていると感じます。

この一般的な背景と、その中に違和感がありながらも溶け込んでいる
主人公達の家が凄い。この作品の立ち位置を表しているかのようです。
居間の乙女趣味と子供的な意匠が交じり合った内装。
部屋の一つ一つが、どこを見ても見逃せないほどのクオリティで描かれます。

この描かれ方のタッチを見た時に「小林七郎さん的!」と思いましたね。
美術の秋山健太郎さん、中村千恵子さんは小林プロ系列なので納得です。
それにしても何気ない水道管がこんなにも魅力的に見える。
アニメの魅力って細部へのこだわりに、その理由があるのではないでしょうか。

この暗闇に照らし出される光。出崎統さんっぽい印象を受けました。
モブの演出 世界は高倉兄弟中心で動いている
この作品で面白かった演出の一つにモブの描写があります。

まるで避難マークそのままで描かれたようなモブ達。
一見手抜きにみえるかもしれません。ただ私は全般的に作画のクオリティが高い点を考えると
この部分を手抜きをするのはおかしい、だから意図があるのだろうと考えます。

その意図とは、この世界は高倉 晶馬 高倉 冠葉達を中心に描くという事で、
モブの存在は高倉兄弟の人生とは関係が無いという描写なのでしょう。
その中に彼らの人生とは関係がある。3人の少女が
クローズアップされる事を強調した演出だといえるのではないでしょうか。
さらにこうした演出がシャフトっぽいと思われるかもしれませんが
既に同様のモブの演出を「少女革命ウテナ」で行っています。

(少女革命ウテナOPより)
ウテナの頃は、まだモブの髪に変化があるなど、人間らしく描かれていますが、
本質的にはどちらも徹底的にモブという「記号」として描かれています。
この部分では通底すると思うのです。
ウテナを彷彿とさせる描写
幾原監督は美意識の高い方で、自分の感性を強く信じる方です。
やはりピングドラムにはウテナらしい描写がたくさん見られました。
まず鉄格子が映える両作品みたいな感じのシーンから。

(ピングドラムOP)

(ウテナ2話 生徒会室のシーン)
次に、2人のキャラの会話シーン。

少年二人が意味深な会話を繰り広げていましたね。
(少年達の会話は宮沢賢司っぽい?でもおそらくテーマに直結する会話です)
「輝きのタクト」でいえば、序盤のサカナちゃんが語っていた
「イカ刺しサム」みたいなものです。

この少年2人に該当するのは、影絵少女A子B子ですね。
作品とはまるで関係が無い会話をしているように見せかけて
実は作品の本質を別部分から抉り取っていく。
「影絵少女」も「イカ刺しサム」も「少年2人の会話」も全て同じ機能をしています。
そしてもっとも象徴的演出だったのが、コレ!
(高倉 冠葉が謎人格中の高倉 陽鞠に胸から何かを引き抜かれるシーン)

(ウテナ25話 ウテナの体内から剣が引き抜かれるシーン)
幾原さんは主人公の胸から何かが出てくる描写が好きなのでしょうね。
少年・少女の胸から出てくるのは、勇気なのか・世界を革命する力なのか。
それとも「何ものにもなれない、お前たちが何かになれるもの」なのでしょうか。
1話 スタッフリスト
おもに原画やOPアニメの原画マンのクレジットを書き起こしました。
脚本:幾原邦彦・伊神貴世 絵コンテ:幾原邦彦 演出:中村章子 作画監督:西位輝実

原画:林明美 馬場充子 井野真理恵 進藤優 益山亮司
後藤圭二 佐藤雅将 加々美高浩 薗部あい子 中村深雪
いとうまりこ 古川知宏 すしお 肥塚正史 中村章子

スペシャルアニメーション(クリスタルワールド)
細田直人 林明美 杉本功 後藤圭二 長谷川眞也
光田史亮 進藤優 馬場充子 柴田勝紀

オープニングアニメーション
絵コンテ:幾原邦彦 古川知宏 演出:幾原邦彦
作画監督:西位輝美 柴田勝紀
原画:相澤昌弘 馬越嘉彦 後藤圭二 柴田由香 進藤優
長谷川眞也 柴田勝紀 武内宣之 中村章子 西垣庄子 馬場充子 林明美
エンディングアニメーション:中村章子
スタッフリストから見て思う事 ウテナの同窓会
個人的に嬉しいのは、幾原さん人脈・旧ウテナ組の方々が多く集結したって事ですね。
以下、1話の原画やOPで「少女革命ウテナ」に関わったスタッフを紹介します。
林明美さん:6.7.14.18.23.26.31.38(作画監督)
後藤圭二さん:9(原画)
相澤昌弘さん:5.11.19.25.32.35(作画監督)
武内宣之さん:15.20.29(作画監督)
長谷川眞也さん:1.12.25.33.34.39(作画監督)(キャラクターデザイン・ビーパパスメンバー)
私的にはこの作品はウテナで大いに若き熱を燃やし尽くした方々が
12年ぶりに集まった同窓会なのではないかと思うのです。
でなければ、こんなにウテナに近しい人たちが集まらないでしょう。
幾原さん以外も、ウテナが極めて大事な作品であるかがわかるリストだと感じました。
このウテナスタッフに加々美さん西位輝実さん馬場充子さんといった
馬越嘉彦さんに近いスタッフ(通称:馬越軍団)が終結したって感じですね。
馬越さんは「夢喰いメリー」の山内重保監督と最も濃く仕事をしていますが
山内さんと幾原さんは東映動画時代の先輩後輩の関係です。
そして幾原さんが東映の演出家の中で最も影響を受けのはおそらく山内さんです。
その意味では山内系の馬越さんと幾原さんの融合の意味でもこのスタッフ陣は意義深いです。
そしてもう一つ思うに、西位さんは若い頃にウテナの同人誌で活躍していたように
幾原さんと仕事がしたい方は特に若手の方に多かったのではないでしょうか。
だから今後も原画陣には、若手の素晴らしいアニメーターさんが
たくさん参加する可能性が高いと感じました。
まとめ この時代に人は本当に何かになれるのか?
幾原監督は1998年「劇場版ウテナ」上映前に、
ウテナ以降の活動についてインタビューで以下のように答えています。
(中略)映画(劇場版ウテナ)が終わったら、もう同じような作品はやりたくないね。
次はスカっとヘビーメタルな感じのものか、スラップスティックな感じのがいいね(笑)。
「薔薇の容貌」(著:伊藤誠之助・KKベストセラーズ:1998年)より
当時の幾原監督はこう考えていたようでしたが、
今のこの作品は皆様にどう映ったのでしょうか?
幾原監督が原案・シリーズ構成・脚本・監督を務めているため
何より絵コンテも担当した幾原監督の匂いがとても色濃く出ている1話でした。
そして「輪るピングドラム」がウテナと同じ匂いを感じつつも
必ず違う世界に我々を導いてくれる事になるだろうという確信も抱きつつあります。
そして私は幾原監督の情熱は未だ衰えずという空気を映像から肌で感じました。
それは「人は何かになれる」という確信でもあります。
(わけがわからん だがそれがいい)正直、「なぜこうなった」「どんな理由でこんな展開になった?」
唐突な展開というような感想を抱かれる方は多いと思います。
でも、そこが幾原ワールドの持ち味であり、必ず伏線になり物語のテーマとして昇華します。
だから「わかるから面白い」という面白さもありますが、
幾原さんの作品は「わからないから面白い」「わからないけど面白い」のだと思うのです
だから「わからないけど面白い」は最高の褒め言葉!!自分が知らない世界・知らない表現を見せて、新しい自分へ誘ってくれる。
それが映像表現たるアニメの魅力だと思うのです。
だから「わからない」と感じたなら、この作品に新しい何かがあるともいえるのです。
ワクワクドキドキ感が止まらない1話。ここで切るにはとても惜しい作品です。
なので、もっと見て、楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうかと思いました。
ブログ右側に「輪るピングドラム」人気投票を設置しました。
好きなキャラに投票お願いします。 http://twodimension.net/archives/2011/0709_111627.shtml
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感想はじめに 12年ぶりの幾原監督の新作
この作品について語る前に「幾原邦彦」さんについての想いを述べます。

(作中でもOPでも象徴的に用いられるりんご。
ウテナが薔薇を回すなら、ピングドラムはりんごを回転させていますね。
あと少年達によると「りんご」は宇宙であり、別世界を行き来する装置でもあるようです)
「幾原邦彦」。この名前を知っているのと知らないとでは
「輪るピングドラム」のという見方・作品の向き合い方が全く違うでしょう。
幾原さんは
「美少女戦士セーラームーン」「少女革命ウテナ」で
90年代のアニメに絶大な影響力を与えた監督さんです。
これらの作品については、多くを語りませんが、
おそらく90年代の「エヴァ」の衝撃に肉薄できた作品の一つが「ウテナ」でしょう。
そして「輪るピングドラム」は幾原監督の12年ぶりの新作です。
まぁ幾原さんはトップをねらえ2の2話やソウルイーターの30話や青い花の
絵コンテはやってましたが、やはり監督作を待ちに待ち焦がれました。
正直、幾原さんはアニメの監督をもうしないのかなと思った事もあります。
政府の援助でアメリカの留学し、漫画原作などを手掛けていたりする中で
もう戻ってこないのかなと思ってました。
そしてやっと帰ってきた。嬉しい限りです。
12年間待っていた甲斐がありました。幾原監督を支えるキングレコード
OPを見た時に嬉しかったのが
「企画:森山敦」とあった事です。

なぜかといえば、森山さんといえばキングレコードの人。
つま「輪るピングドラム」はキングレコード製作なのです。
しかも企画名に名前が挙がっているのは森山さんだけ。
つまりキングレコードの独自企画といっても良いでしょう。
ではなぜキングレコードだと嬉しいのか。
それは「少女革命ウテナ」の製作が「キングレコード」だからです。つまり今でも「キングレコード」は「輪るピングドラム」の製作を受け持ち
幾原さんの企画を支えてくれたのです。
OPでは「企画:森山敦さん」のクレジットがありますが、
この裏にはキングレコード専務取締役の「大月俊倫」さんの影がちらつきます。
大月さんは「ウテナ」のプロデューサーでした(エヴァのプロデューサーでもある)。
さらに森山さんの上司に当たる方といわれています。
大月さんの協力無しでは、キングレコード製作にならなかったでしょう。
つまり大月さんが幾原さんと協力関係にあったからこそ、
この作品は世に生まれ出たと感じました。
この事は私の妄想なので何とも言えませんが、
ウテナもピングドラムもキングレコード製作である事に意味を感じました。
さて お話は? 人は何かになれるのか?
3人の兄弟、その一番下の妹:高倉 陽鞠が病に侵され死んでいくを宣告されるが、
陽鞠は謎の帽子の力によって蘇るというのがあらすじでしょうか。
そして高倉兄弟は生き返った妹の代償としてピングドラムを集めていくようです。

この1話を観ると「何にもなれない人間が、何かになる」という話というのが
作品の根幹のテーマである事を強調しているように思えました。
「少女革命ウテナ」でも主人公のウテナが王子様にあこがれ、
「何かになる・なりたい」存在として描かれていました。
よく考えたら、一回死んでしまった・死の淵にあった高倉 陽鞠が
何かの力によって生き返った事自体が「何かになった」といえるのではないでしょうか。

そして新しく何かになった高倉 陽鞠が高倉兄弟を違う世界に導き
「何か」になろうとさせる物語ではないかと感じました。
「少女革命ウテナ」では、二人の少女が自分の世界を革命していく変遷を描きました。
対して「ピングドラム」では、2人の兄弟の世界を変える内容になるかもしれませんね。
しかしここで重要なのは
「何物にもなれない」と否定から始まっている事ですね。
今の時代は震災にも原発にも政治にも経済にも、何より将来に
とにかく閉塞感を感じる時代です。まさに「何にもなれない」と思ってしまいがちです。
かつて幾原監督は
「未来へ生きていくには、どういったモチベーションであるべきか。
今の大人は若者にどうやっていきていくのかを伝えられていないのでは。
だから作品を通して若者の生き方を視聴者に伝えたい」と言っていました。
幾原監督がこの時代をどう捉え、どう未来への指針を発信していくか。楽しみです。
それにしても「運命」「奇跡」って単語が作品内に出てくると
俄然テンションが上がりますね!!ペンギンの意味は?
この作品で重要な役割を果たすであろうペンギン。
ペンギンが意図するものは何なのでしょうか?


さえ幾原監督は
残念なことに「ウテナ的な作品」じゃないんです。どっちかというと「ペンギン的な作品」なんです(・⊝・)
と語っています。この発言の意図を知る為にも今後も見守っていきたいと思います。
異世界に導く仰天のアニメーション。
私はアニメは何よりも絵を大事にして見ていきたいと考えていますが、
ピングドラムの絵に関しては充実過ぎるぐらい充実していましたね。
「生存戦略しましょうか?」帽子を被った為に謎人格が憑依した事で生き返った高倉 陽鞠ですが、
謎人格の高倉陽鞠が別世界へ高倉兄弟を導きます。




まさにウテナにおける「絶対運命黙示録」。
日常から限りない遠くに導かれた非日常的空間。
アニメはイリュージョンを描いてこそ、真価を発揮すると思うのです。
この一連のアニメーションは素晴らしかったですね。
曲のあまりのハイテンションさも相まって、
音と映像がシンクロした快楽を極限まで表現していたとお思います。
魅力的な美術背景
作品の舞台を彩る、美術背景が凄まじく良かったですね。

いわゆる平凡な日常でも、こんなデザインで着飾ればここまで華やかになれる。
そんな事を感じさせる虚構空間です。
アニメはいかに魅力的な虚構を作り出せるか、ここに掛っていると感じます。

この一般的な背景と、その中に違和感がありながらも溶け込んでいる
主人公達の家が凄い。この作品の立ち位置を表しているかのようです。
居間の乙女趣味と子供的な意匠が交じり合った内装。
部屋の一つ一つが、どこを見ても見逃せないほどのクオリティで描かれます。

この描かれ方のタッチを見た時に「小林七郎さん的!」と思いましたね。
美術の秋山健太郎さん、中村千恵子さんは小林プロ系列なので納得です。
それにしても何気ない水道管がこんなにも魅力的に見える。
アニメの魅力って細部へのこだわりに、その理由があるのではないでしょうか。

この暗闇に照らし出される光。出崎統さんっぽい印象を受けました。
モブの演出 世界は高倉兄弟中心で動いている
この作品で面白かった演出の一つにモブの描写があります。

まるで避難マークそのままで描かれたようなモブ達。
一見手抜きにみえるかもしれません。ただ私は全般的に作画のクオリティが高い点を考えると
この部分を手抜きをするのはおかしい、だから意図があるのだろうと考えます。

その意図とは、この世界は高倉 晶馬 高倉 冠葉達を中心に描くという事で、
モブの存在は高倉兄弟の人生とは関係が無いという描写なのでしょう。
その中に彼らの人生とは関係がある。3人の少女が
クローズアップされる事を強調した演出だといえるのではないでしょうか。
さらにこうした演出がシャフトっぽいと思われるかもしれませんが
既に同様のモブの演出を「少女革命ウテナ」で行っています。

(少女革命ウテナOPより)
ウテナの頃は、まだモブの髪に変化があるなど、人間らしく描かれていますが、
本質的にはどちらも徹底的にモブという「記号」として描かれています。
この部分では通底すると思うのです。
ウテナを彷彿とさせる描写
幾原監督は美意識の高い方で、自分の感性を強く信じる方です。
やはりピングドラムにはウテナらしい描写がたくさん見られました。
まず鉄格子が映える両作品みたいな感じのシーンから。

(ピングドラムOP)

(ウテナ2話 生徒会室のシーン)
次に、2人のキャラの会話シーン。

少年二人が意味深な会話を繰り広げていましたね。
(少年達の会話は宮沢賢司っぽい?でもおそらくテーマに直結する会話です)
「輝きのタクト」でいえば、序盤のサカナちゃんが語っていた
「イカ刺しサム」みたいなものです。

この少年2人に該当するのは、影絵少女A子B子ですね。
作品とはまるで関係が無い会話をしているように見せかけて
実は作品の本質を別部分から抉り取っていく。
「影絵少女」も「イカ刺しサム」も「少年2人の会話」も全て同じ機能をしています。
そしてもっとも象徴的演出だったのが、コレ!
(高倉 冠葉が謎人格中の高倉 陽鞠に胸から何かを引き抜かれるシーン)

(ウテナ25話 ウテナの体内から剣が引き抜かれるシーン)
幾原さんは主人公の胸から何かが出てくる描写が好きなのでしょうね。
少年・少女の胸から出てくるのは、勇気なのか・世界を革命する力なのか。
それとも「何ものにもなれない、お前たちが何かになれるもの」なのでしょうか。
1話 スタッフリスト
おもに原画やOPアニメの原画マンのクレジットを書き起こしました。
脚本:幾原邦彦・伊神貴世 絵コンテ:幾原邦彦 演出:中村章子 作画監督:西位輝実

原画:林明美 馬場充子 井野真理恵 進藤優 益山亮司
後藤圭二 佐藤雅将 加々美高浩 薗部あい子 中村深雪
いとうまりこ 古川知宏 すしお 肥塚正史 中村章子

スペシャルアニメーション(クリスタルワールド)
細田直人 林明美 杉本功 後藤圭二 長谷川眞也
光田史亮 進藤優 馬場充子 柴田勝紀

オープニングアニメーション
絵コンテ:幾原邦彦 古川知宏 演出:幾原邦彦
作画監督:西位輝美 柴田勝紀
原画:相澤昌弘 馬越嘉彦 後藤圭二 柴田由香 進藤優
長谷川眞也 柴田勝紀 武内宣之 中村章子 西垣庄子 馬場充子 林明美
エンディングアニメーション:中村章子
スタッフリストから見て思う事 ウテナの同窓会
個人的に嬉しいのは、幾原さん人脈・旧ウテナ組の方々が多く集結したって事ですね。
以下、1話の原画やOPで「少女革命ウテナ」に関わったスタッフを紹介します。
林明美さん:6.7.14.18.23.26.31.38(作画監督)
後藤圭二さん:9(原画)
相澤昌弘さん:5.11.19.25.32.35(作画監督)
武内宣之さん:15.20.29(作画監督)
長谷川眞也さん:1.12.25.33.34.39(作画監督)(キャラクターデザイン・ビーパパスメンバー)
私的にはこの作品はウテナで大いに若き熱を燃やし尽くした方々が
12年ぶりに集まった同窓会なのではないかと思うのです。
でなければ、こんなにウテナに近しい人たちが集まらないでしょう。
幾原さん以外も、ウテナが極めて大事な作品であるかがわかるリストだと感じました。
このウテナスタッフに加々美さん西位輝実さん馬場充子さんといった
馬越嘉彦さんに近いスタッフ(通称:馬越軍団)が終結したって感じですね。
馬越さんは「夢喰いメリー」の山内重保監督と最も濃く仕事をしていますが
山内さんと幾原さんは東映動画時代の先輩後輩の関係です。
そして幾原さんが東映の演出家の中で最も影響を受けのはおそらく山内さんです。
その意味では山内系の馬越さんと幾原さんの融合の意味でもこのスタッフ陣は意義深いです。
そしてもう一つ思うに、西位さんは若い頃にウテナの同人誌で活躍していたように
幾原さんと仕事がしたい方は特に若手の方に多かったのではないでしょうか。
だから今後も原画陣には、若手の素晴らしいアニメーターさんが
たくさん参加する可能性が高いと感じました。
まとめ この時代に人は本当に何かになれるのか?
幾原監督は1998年「劇場版ウテナ」上映前に、
ウテナ以降の活動についてインタビューで以下のように答えています。
(中略)映画(劇場版ウテナ)が終わったら、もう同じような作品はやりたくないね。
次はスカっとヘビーメタルな感じのものか、スラップスティックな感じのがいいね(笑)。
「薔薇の容貌」(著:伊藤誠之助・KKベストセラーズ:1998年)より
当時の幾原監督はこう考えていたようでしたが、
今のこの作品は皆様にどう映ったのでしょうか?
幾原監督が原案・シリーズ構成・脚本・監督を務めているため
何より絵コンテも担当した幾原監督の匂いがとても色濃く出ている1話でした。
そして「輪るピングドラム」がウテナと同じ匂いを感じつつも
必ず違う世界に我々を導いてくれる事になるだろうという確信も抱きつつあります。
そして私は幾原監督の情熱は未だ衰えずという空気を映像から肌で感じました。
それは「人は何かになれる」という確信でもあります。
(わけがわからん だがそれがいい)正直、「なぜこうなった」「どんな理由でこんな展開になった?」
唐突な展開というような感想を抱かれる方は多いと思います。
でも、そこが幾原ワールドの持ち味であり、必ず伏線になり物語のテーマとして昇華します。
だから「わかるから面白い」という面白さもありますが、
幾原さんの作品は「わからないから面白い」「わからないけど面白い」のだと思うのです
だから「わからないけど面白い」は最高の褒め言葉!!自分が知らない世界・知らない表現を見せて、新しい自分へ誘ってくれる。
それが映像表現たるアニメの魅力だと思うのです。
だから「わからない」と感じたなら、この作品に新しい何かがあるともいえるのです。
ワクワクドキドキ感が止まらない1話。ここで切るにはとても惜しい作品です。
なので、もっと見て、楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうかと思いました。
ブログ右側に「輪るピングドラム」人気投票を設置しました。
好きなキャラに投票お願いします。 http://twodimension.net/archives/2011/0709_111627.shtml
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