はじめに
「機動戦士ガンダム」の中心アニメーターにして、
今は漫画家として活躍されている安彦良和さんの
「機動戦士ガンダム」の原画集が庵野秀明監督編集の元、
5/31に発売されているようだ。
日本の代表的なアニメ作品の一つである「機動戦士ガンダム」。
安彦さんが描くキャラクター、メカニックに惹かれて
「機動戦士ガンダム」を支持しているファンも多いと思われるし、
安彦さん抜きに「機動戦士ガンダム」は語れない。
さて今回は安彦さんと「機動戦士ガンダム」の総監督である
富野由悠季監督の関係について私見を述べてみたい。
さらに富野監督と湖川友謙さんの関係を比較することで、
富野監督と安彦さん、富野監督と湖川さんの
それぞれの関係性を見ながら考えてみたい。
梶原原作におけるちばてつやさんと川崎のぼるさんの関係と比較して考える
私が富野監督と安彦さん、そして湖川さんの関係を考える時に
梶原一騎原作におけるちばてつやさんと川崎のぼるさんの関係に近いと思った。
こう考えるキッカケになったのは
BSマンガ夜話の「あしたのジョー」の回に出演した
漫画家:いしかわじゅんさんによる以下の発言だ。
巨人の星とあしたのジョーってさホントに並べられて、途中から巨人の星ってギャグのネタになっちゃったじゃない。あれかわいそうだよね。両方とも傑作だったんだよ。川崎のぼるってさ、いかに梶原一騎の原作を増幅して見せるかってことに心をくだいた人でさ、ちばてつやは原作を引きつけてともに生かして演出しようと思った人なんだよね。その差だけなんだよね。
梶原一騎原作を増幅させる川崎のぼるさん。
梶原一騎原作を生かして演出するちばてつやさん。
というのがいしかわじゅんさんの評だ。
このちばてつやさんと川崎のぼるさんの差が、
安彦良和さんと湖川友謙さんの差に近いと思った。
それは安彦さんはちばてつやさん的であり、
湖川さんは川崎のぼるさん的であるということだ。
庵野さんと幾原さんによる、安彦さんと湖川さんの評価
そもそも今回の記事を書くキッカケになったのが
同人誌「逆シャア友の会」で庵野秀明監督と幾原邦彦監督が対談した内容だ。
安彦さんと湖川さんに対する評価に関して、二人は以下のように語っている。
庵野 安彦さんの富野さんの世界観をまるっきり否定してしまうような絵がですね、なんか最初の『ガンダム』の私にとって魅力だったんですけどね。
幾原 最初の頃はね、まだ安彦さんと富野さんの接点ってあったんですよね。富野さんもまだ、それほど観念的には自分が何を表現したいかって考えてなかったんだと思うよ。そういう意味ではドラマ主義ですよね。ドラマとして『ガンダム』を考えていたというのがあるんだけど、観念としてはそれほど『ガンダム』のことを考えてなかったわけ。多分、「観念描写だけでドラマを作っていいんだ」ということを再確認したのは『イデオン』だろうなと思うわけ。『イデオン』によって、「観念だけでも話しになるじゃないか」と自信を持ったんじゃないかと思うんだけど。
庵野 多分ね、僕も気付いたのは『イデオン』だったね。途中から走っちゃったからね。でも、『イデオン』の湖川さんの絵はピッタリしすぎてつまんない。
幾原 ああ、そう。僕は湖川さんの絵、好きですよ。でも、そういうことあるかもしれない。解り易すぎるんですよね。非常に表情にしても、バイオレンス描写にしても、非常にそのままなんです。解り易いんです。 例えば、子供の首が吹っ飛んだりする描写がいっぱいあったりするんだけど、ああいうものって、昔、永井豪が「バイオレンスジャック」でやったような確信犯的な描写ですよね。「ここまでやるんだぞ」っていう確信犯的な描写なんだけど、それがいかにも「確信犯としてやっています」っていうメッセージが解り易すぎる。
庵野 そう。なんかね、それに対する否定的な部分というのが画面から見えてこないんですよ。 安彦さんがやると「こんなのはやりたくない」というようなのが端々に出ていて、それがいい味だしてる。
(逆シャア友の会より)
まず赤文字を安彦さんに対する評価、青文字を湖川さんに対する評価と分けてみた。
富野監督の世界観を否定もする安彦さん。
富野監督の世界観にピッタリ、わかりやすいのが湖川さん。
というのが、庵野監督と幾原監督の当時の見解のようだ。
余談だが、庵野監督の安彦さんに対する評価は高い。
まさかこの同人誌を作って20年後に原画集の編集を行うとは…
当時の庵野監督も思っていないだろう。
そんな二人の評価を上記のいしかわじゅんさん的な言い方に変えれば
富野原作(絵コンテ)を(作画で)増幅させるのが湖川さん。
富野原作(絵コンテ)を(作画で)生かして演出するのが安彦さん。
と言い換えることもできるのではないかと思った。
以上のように考えると、
富野監督と安彦さんの関係は、梶原一騎さんとちばてつやさんの関係に近いし、
富野監督と湖川さんの関係は、梶原一騎さんと川崎のぼるさんの関係に近いといえる。
そう考えると、富野監督と安彦さんが組んだ「1stガンダム」は「あしたのジョー」的であり、
富野監督と湖川さんが組んだ「伝説巨人イデオン」は「巨人の星」的なのかもしれない。
おわりに
富野監督の世界観/観念を増幅させて表現したのが「イデオン」の湖川さんであり
一方で、富野監督の世界観を否定したり(アレンジともいえるかも)
しながら表現したのが「ガンダム」の安彦さんといえるだろう。
そしてBSマンガ夜話の「あしたのジョー」で、夏目房之助さんは
なぜホセ・メンドーサ戦で、ドヤ街の人が応援にこなかったのかに対して
「これが物語の必然」と語り、梶原さんとちばさんの作風がせめぎ合いの結果、
ちばさんが作り上げたドヤ街のキャラクターは退場し
梶原一騎的世界に収まるのが必然というような分析をしている。
一方で1stガンダムも富野監督と安彦さんがせめぎ合っていた作風が、
物語の後半で登場した「ニュータイプ」という言葉に象徴されるように
一気に富野監督的世界に傾斜していったようにも見られる。
その意味でも「あしたのジョー」も「機動戦士ガンダム」も
原作者と絵描きの個性と作風も違う二人のせめぎ合いの結果生まれた傑作であり、
最終的には原作者が作り出す世界/世界観に収斂していく意味では、
似ている作品であるのかもしれない。
何にしても「機動戦士ガンダム」は
あの時の富野監督と安彦さんが組んだからこそできた作品なのだと思う。
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