はじめに
「夢と狂気の王国」を見た。


「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」製作時のスタジオジブリと
とりわけ宮崎駿・鈴木敏夫・高畑勲の3人に焦点を当てたドキュメンタリー映画である。
今回はこのドキュメンタリー映画について語りたいと思う。
宮崎駿・鈴木敏夫・高畑勲
ジブリのドキュメンタリーは前にもあったが、
今回は砂田麻美監督自身による女性の視点からの撮影が
今までのジブリのドキュメンタリーとは違っていて新鮮だった。
特に制作の三吉さんなど女性スタッフにも多くインタビューを行い
女性視点のジブリという描かれ方をされていたのが興味深かった。
砂田監督の視点は「風立ちぬ」等の作品に迫るドキュメントというより
スタジオジブリという会社組織に生きる人々の日常を追っかけていくという感じだ。
そんなスタッフ達を自然な感じに撮影している点に
このドキュメンタリー映画の上手さだと感じた。
砂田さんの撮り方、撮る前の段取りが上手いのだろう。
宮崎さんも、撮影されている砂田さんが女性の映画監督という事もあり
撮影中も敬意を持って受け答えしている印象を持った。
前のドキュメンタリー「崖の上のポニョはこうして生まれた」では
宮崎さんが、時たま撮影者に説教的な感じで語っていた点とは対照的だった。
それにしても宮崎さんはその存在自体が面白い。
何にしても強烈な人であることは、伝わってくる。
そしてジブリの番頭である鈴木敏夫さんは、精力的に人と会い、打ち合わせをする。
また宮崎さんがジブリを出て仕事をする場合は必ず傍に寄り添う。まさに女房。
個人的には、庵野さんを助手席に乗せて自分で運転しているシーンと、
ラストあたりの風立ちぬのコンテを読む姿が印象的。
高畑勲さんは殆ど姿を現さないが、やはりジブリの根っこは彼にある事を再認識。
高畑さんがいたからこそ、今の宮崎さんがあって、
その二人と出会った鈴木さんが揃ってジブリになったと思う。
一方で「かぐや姫の物語」を全く完成させようとしない高畑さんに対し
30年の付き合い鈴木さんでさえ「理解不能」と言わせてしまう業の深さ。
高畑さんは映画を完成させる事以上に、映画をいつまでも作り続けたいと
思わせる鈴木さんのボヤキだった。
そんな中で、高畑さんと足掛け8年間寄り添い
「かぐや姫の物語」を作り上げた西村義明プロデューサーの存在が頼もしかった。
おそらくジブリで一番難しい仕事は「高畑勲に仕事をさせて映画を完成させる事」
であろうし、それは今の鈴木さんでもできない事でもあるが、
この高畑勲の映画を完成させる事を実現した西村さんなら
今後のジブリの未来を任せられると感じた。
※鈴木さんは現場のプロデュースを西村さんに任せたようだ。
夢と狂気の王国
ドキュメンタリー中で宮崎さんは「風立ちぬ」で映画を作ることは最後だと言っていた。
それは夢の終わりでもあると言う。東映動画に入社しジブリに席を置いてから50年。
夢の終わりとは戦後の日本アニメの出発点の一つである東映動画出身の
宮崎さんと高畑さんによる長編漫画映画制作のイズムの終わりでもあるのだと思う。
そんな長編漫画映画は狂気によって作られる。
その狂気は表面的に激しいものではなく、
机に向かってコンテを切り、原画を描き、カットを修正するという
アニメーション制作の淡々とした積み重ねによるものから生まれる狂気。
このスタジオジブリという王国は、創業者たちの夢が終わりつつも
一方で西村さん達が映画製作という夢と狂気を引き継ぐ。
そんな瞬間を見せてくれたドキュメンタリーだったと思う。
終わりに
後半に宮崎さん、鈴木さん、高畑さんのスリーショットがあり、
この3人が残した足跡とアニメ界における貢献度の大きさを感じさせた。
そして戦後の商業アニメーション界のパイオニア達が一線を退く形を迎える姿を見て
2010年代は今まで以上に新しい世代がアニメ界を引き継いでいく事も感じさせた。
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