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【感想】ヱヴァゲリオン新劇場版「破」を劇場版Zガンダム(富野監督)と比較する 

「破」の感想2回目。
ちょっと切り口を変えた感想。

それは、今回の「ヱヴァ」と似たようなコンセプトだったと思われる
Zガンダム劇場版3部作、そして庵野監督の作風にも影響を及ぼしている
富野監督と比較しながら感想を述べたい。

今回の「ヱヴァ」が凄いのはかつてのTV「エヴァ」を超える可能性を秘めてる所だ。
「序」の時はまだおぼろげだったが、「破」を見て、その確信がさらに強まった。
映像メディアでもマンガでも何でもいいが、リメイクや続編は本家を超える事が出来ない。
ほとんど無理であると言っても良い。「ヤマト」しかり「北斗の拳」しかり。
理由は作品によってまちまちだが、大きな理由は作品は時代の産物でもあるから、
その時代で無いと意味を成さない場合が多いからだ。
今回の「ヱヴァ」はその辺りをきちんと汲み取ってテーマなり話を
今の時代の「エヴァ」にちゃんとカスタマイズしているように感じる。
端的に言えば、シンジもいつまでもくよくよしてちゃ駄目だって事だろう。


ちょっと前に劇場版Zガンダムの3部作の総集編があった。
TVでは自らのニュータイプ力の増大により精神を崩壊させたカミーユ。
劇場版ではそのカミーユを穏やかな性格にして精神を崩壊させず
幸せな結末と迎えさせるというのが話のコンセプト。
このコンセプトは嫌いではないが、新規カットと旧シーンがごっちゃで中途半端すぎ
やはりどう擁護しても映画としての体裁に欠けてしまう点と
カミーユ以外のキャラがあんまし膨らまなかったのが残念だった。
Zの映画はTV版を超えられなかったと思うのが結論だ。

今回の「ヱヴァ」はZ劇場版を反面教師にして作られているらしい。
それはZ劇場版の商業的成功が「ヱヴァ」も同様にっていう流れらしい。
「ヱヴァ」も最初はZ劇場版ぐらいの感覚の総集編だったようだが、
Zの二の轍を踏む、つまり中途半端な出来になるとの事で、全編作り直しに踏み切ったらしい。
この決断は本当に「ヱヴァ」のクオリティを底上げできた決断だったと思う。

庵野監督はZ劇場版だけでなく、ガンダムそして富野監督を参考にしてると思われる。
庵野監督は今回の「ヱヴァ」を「ガンダム」のようにしたい、
つまりシリーズ化させ、理想は自分が携わる事なく展開する事を考えている。
その為の第一歩として今回の「序破急」なようだ。

そして富野監督が「ガンダム」の権利・原作権を手放したために、
作品作りが大きな意味でコントロールできない状況を間近で見ていたので
自分が権利を所有し作品をコントロールしたいと考えていたようである。

その為に原作権は絶対手放さず、最初から作品内容だけでなく宣伝や商品展開までも
自分でコントロールしつづけたのが「エヴァ」だった。
そして、今回の「ヱヴァ」にあたっては、メインホームだったガイナックスから独立し
自らのスタジオ「カラー」を設立。ジブリの宮崎監督のように自分の采配が
完全に揮える環境作りを整えた。

さらに何より凄いのは、興行や配給といった部分をもコントロールしている所だ。
配給まで自社カラーが担当しているのは本当に凄い。
こうした利権のめんどくさい所まで手掛けるのはアニメの監督としては珍しい。
しかしそういった所までコントロールしないと自分の「ヱヴァ」が伝わらないと
考えている庵野監督の心意気なのだろう。

Z劇場版の最大の差はそこで、製作上のシステムやスタッフの人選、予算の質が
全然違う、というかそれを含めた作り手の本気度が違うのだ。
勿論Z劇場版が手抜と言うわけではなく、今回の「ヱヴァ」が凄いのだ。
Zも20年のブランクがあるから、最低全カット新規作画でやるべきだったし、
予算も1本1億の予算でお茶を濁すような感じにしてほしくなかったのが本音だ。
富野監督もやるからにはもっとちゃんとした環境でやりたいだろうけど、
原作者としての権利も殆ど無く、自分の会社も無い雇われ状態の監督の身としては
ああいう形でZを仕上げるのが限界だったのだろう。

ともかく「ヱヴァ」は庵野監督が全ての面で指揮をしている。
この心意気の熱さ、完璧主義の極みなスタイルが「ヱヴァ」が面白い最大の理由だと思う。

ただ個人的に庵野も好きだが、富野にはもっと日の目が当たってほしい!!
 
「破」の本編の感想は→【マリ】ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 【感想】
 
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[ 2009/06/29 17:38 ] 富野由悠季 | TB(0) | CM(17)
富野監督は、
>Zの作り直しをまねて「エヴァでもやろう」となったという経緯を知っている。
>今はエヴァは眼中に無い。
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/x3/1245528866/599
だそうです。
もっとも富野監督一流の負け惜しみなのかもしれませんが・・・
[ 2009/06/30 03:56 ] [ 編集 ]
この発言は書く前から知っていました。あと、この記事を書く動機のひとつになってます。

富野監督と庵野監督は映像に求める方向性がもちろん違うのですが、
庵野監督は「破」でその技量を如何無く発揮したのに対し、
富野監督は新作を作っていない状況にあるのが悔しくて書きました。
[ 2009/06/30 07:31 ] [ 編集 ]
富野監督がエヴァを眼中にないと言った気分はなんとなく分かる気がします。
はっきり言って戦闘シーン以外つまらないですよ。
やたらネットで絶賛されているのが心底理解できません
[ 2009/07/02 19:42 ] [ 編集 ]
富野監督は貞本キャラの造形で物語を作れないと考えてますから本当に眼中に無いと思います。
個人的には富野監督側に与したいですが、両者の置かれた状況を慮るに
富野監督のファンとしては忸怩たる思いです。

まぁ100人いて100人全員が絶賛なのも怖いですし、駄目な部分もあると思います。
むしろそういった意見を聞いてみたいです。

[ 2009/07/03 00:31 ] [ 編集 ]
私が見る前に今回の破が公開直後から「エンターテイメントとして傑作」という評判を聞いていいことだなと思ってたんですよ。今更謎だの精神世界だのやっても仕方ないよなと。
実際に見てきました。確かに戦闘シーンは良かった。CGの違和感もほとんどありませんし見ごたえある映像でした。
しかし人間関係が退屈すぎますよ。加持とミサトの飲み屋での会話、エレベーター内でのアスカとレイ。
レイを助けようとしたシンジの目が光るのを見て「あっ、バカ映画なんだ」とやっと気が付きましたが、バカ映画ならもっとはじけてほしかった。
結局生きた人間ドラマを作れる人間関係の組み方をしてないんですねエヴァって。富野監督の言うことは変なことも多いですけどそこは当たってるなと思いました。
[ 2009/07/03 09:13 ] [ 編集 ]
>今更謎だの精神世界だのやっても仕方ない
同意です。それは過去の「エヴァ」や今回の「ヱヴァ」も含めて本質ではないのでしょう。
過去の「エヴァ」は庵野監督が一過性で心理学や聖書的なものにはまってしまい
取り入れた要素だなぁと思っちゃいます。でもそれがあの時代だったとも思います。

>結局生きた人間ドラマを作れる人間関係の組み方をしてないんですねエヴァ
庵野監督は人間ドラマを描けない人だと思います。トップやナディアの頃からそうでした。
表層的なお涙頂戴や燃える展開は得意ですが、そこに人間的描写の深さは無いです。
でも人間ドラマを描きたいという欲望は持っている方なんですよねぇ。
だからこそ富野作品の人間臭い要素が好きで「逆シャア」「Vガンダム」を評価したり
昔の「エヴァ」が心理学的要素を取り入れて人間ドラマに厚みを持たせたかったのだと思います。

最大の違いは、富野監督はアニメを触媒にして「人間」を描きたいと考えていますが
庵野監督はアニメを触媒にして「キャラクター」を描いてしまう所でしょうね。
前のコメントでも書きましたが、富野監督はかつての「エヴァ」を見た時に
貞本キャラに人間性を感じないと言っています。つまり人間を描いてないのだから
人間ドラマを描けるはずが無いと言う事です。でも庵野監督は貞本でOKという事は
二人の人間観に大きな隔たりがあるわけです。

あとやっぱり戦闘シーン以外は箸休め的な意味もあるので
全編はっちゃけた内容では逆にメリハリが無くなってしまう印象があります。
一方で、マリははっちゃけてた印象もあります。

>見ごたえある映像
ここが庵野監督以下旧ガイナスタッフの最も得意とする所で評価したいです。
大事なのは見ごたえがあり尚且つ気持ちが良い映像なんですよねぇ。
見ごたえがあっても、娯楽性が低い映像もありますから。
私は一つでも良い点があったら、評価したいので「ヱヴァ」に関しては
稀に見る娯楽性が高く見ごたえのある映像な所を褒めたいです。

むしろ昔の「エヴァ」でも今の「ヱヴァ」でも人間ドラマの部分に関しては求めてないですし
全く期待していないので、人間ドラマが引っ込んだ今の「ヱヴァ」は見易いです。
[ 2009/07/03 10:09 ] [ 編集 ]
そういう意見もあるんですね
私はドラマに力があって(観客が物語に乗れて)初めて戦闘シーンも気持ち良くなるという考え方で映画を見てるので
今回の映画は正直見ていて悲しかったんですよね。
十年経ってもこんなもんなのかと。
DVDを買ったら戦闘シーン中心に抜き出して自分用のMADでも作りますかね。ただねえ「ぽかぽか」「それって好きってことじゃん」「綾波かえせー」これは単純にセンス悪すぎだとおもうんですけどね。
ただ作画は人物作画も含めて本当に良かったですね。
これだけ絵作りの上手いスタッフは貴重です。
だからこそ勿体ない感がするんですけどね
[ 2009/07/03 10:31 ] [ 編集 ]
確かにドラマも成立していてアクションも良かったらそれにこした事はないです。
今回の「ヱヴァ」はアクションシーンを設定上繋ぐ為の最低限のドラマでしょうね。
でも、昔の想い出もあるからでしょうが、あれぐらいのドラマの提供でも脳内で都合よく補完して
異様に盛り上がって見てしまう自分がいます。正しい見方では無いのでしょうが。

>十年経ってもこんなもんなのかと
パンフレットで鶴巻が「庵野は子供の時から変わっていないのでは」と語っているように
本質的に変わっていない可能性があるのでしょうね。
そもそも商業的理由があるにしても、10年経っても「ヱヴァ」を作っているわけですから。
しかしその10年間で「エヴァ」を凌いだ作品も無かったりもしますが・・・。

>勿体ない感
あんましそれは感じないですねぇ。あれ以上を求めるのは贅沢ですから。
でも絵作りが上手いけど、ドラマがちょっとというのは宮崎駿とジブリに似ていますね。
二人は師弟関係なので、弟子は師匠に似るものなのかもしれません。
というかカラーはジブリ的なものを目指しているのかもしれません。
[ 2009/07/03 11:05 ] [ 編集 ]
>>昔の想い出もあるからでしょうが、あれぐらいのドラマの提供でも脳内で都合よく補完して
異様に盛り上がって見てしまう自分がいます

なるほどそういう感じ方もあるんですね。私はどうもキャラクターたちが躁病的に見えて(あんな簡単に吹っ切れるなら最初から苦悩するなよと)乗れなかったんですが補完するのもありかもしれませんね。
それとマリについてですが彼女の存在は良かったですね。
いい感じの異質感があって。
ただ男の戦い部分に彼女を混ぜるならいっそ話自体を変えるのもありだったかもしれません。
あそこでマリに話しかけられてシンジが初号機に向かうプロットはさすがに許容範囲外です。
ビーストモードは笑いましたがね

>あれ以上を求めるのは贅沢ですから
確かにそうかもしれませんね。良く考えれば四部作の二作目としては十分すぎるほど合格点と言っていいのかもしれません。
[ 2009/07/03 11:18 ] [ 編集 ]
>脳内補完
画面で見えている以上に内容を評価してしまっているのでしょう。
個人的には前のギスギス空気から解放されたキャラ達を見ているだけで気持ち良かったです。

>躁病的
前の「エヴァ」は鬱病的側面がありましたが、確かに今回は躁病ですね。
それは鬱でも躁でもベクトルの向きが違うだけで本質は同じという事かもしれません。

>マリに話しかけられてシンジが初号機に向かうプロット
話的には一番のポイントだと思ってます。
私的解釈ではシンジは乗りたくないと思っているが、どこかわだかまりがある。
そこをマリに「本当に嫌なら、もっと遠くに逃げてる」と指摘されて
本当は乗りたいという本心がわかったのだと思います。
マリが乗せたというより、諭すキッカケになったのではないかと思います。
[ 2009/07/03 16:31 ] [ 編集 ]
>話的には一番のポイントだと思ってます
あれありなんですかねえ。
一度しか面識ない人間に諭されるって展開は。
加持さんに諭される原作に比べるとどうもパワーダウンしてる印象があるんですけどね。
単に私が原作の四つん這いになる初号機の絵面が好きなだけだからかな。あっちの方がドキドキするんですよね。
[ 2009/07/04 08:55 ] [ 編集 ]
>パワーダウン
TVの方が時間の都合、加持の話も多数あり、説得力を持たせられる流れになってますね。
ただ今回の映画では加持の出番は限定的でした。確かに説得役が加持なら
前のシリーズを知っているから描写が少なくても脳内補完が働いて「OK」となりそうです。
でもその役をマリにしたのは「エヴァ」を破壊したかったからに尽きます。
一度しか面識無くても、真面目なキャラで無くても良いというのが「ヱヴァ」なのでしょう。

まぁテレビ放映は設定や伏線、キャラ描写を積み上げて消化させる機能が優れているので
説得力や深さで勝負されると映画は敵わないですね。
TV版との比較はやりがちですが、メディアの特性を踏まえないとも思います。

>四つん這い
あそこの作画凄すぎるので気持ちはわかります。
[ 2009/07/04 13:02 ] [ 編集 ]
>>メディアの特性を踏まえない
これは確かにそうですねえ。
ただ破まではTV版の展開を繰り返してるので比較論になるのは仕方ない部分もあるかもしれません。
http://d.hatena.ne.jp/sinkuutei/
このサイトの方が私なんかよりよほど中立的に解説なさってるので
お暇ならぜひどうぞ。
Qが破が楽しめた人にとって傑作だといいですねえ
[ 2009/07/06 12:16 ] [ 編集 ]
TV版との比較は避けようが無いですね。
紹介されたサイト見ました。

ドラマが成立してないように感じられる理由に関しては、
見応えある映像のわりには、映像の繋がりを感じずらい点にあるとは思ってます。
[ 2009/07/08 08:38 ] [ 編集 ]
ゼータがTV版を超えていないっていうのはどうなんでしょうね?TV版自体が後半バラバラで作品としての体を成していないので思い入れをのぞけばよっぽど新約の方が作品として成立していると思います。

当時の富野作品は後半監督の熱意の低下?にともなって登場人物の存在感が希薄になっていくばかりでゼータは特に酷かったと思います。

新約は全編新作画で各2時間の3部作ならよかったのにとは思いますが、TV版より劣るとも思えません。
[ 2010/01/05 04:31 ] [ 編集 ]
>新約の方が作品として成立している
あらすじから見れば成立しているといえますが、新旧作画がごっちゃになったこの1点で映画として成立してないと感じました。あとは私がTV版のオチが新約より好きなんでしょうね。

>新約は全編新作画で各2時間の3部作ならよかったのに
本当に見たかったです。全編新規作画であれば
もっと評価されていたと思います。
[ 2010/01/05 10:31 ] [ 編集 ]
新旧作画がごっちゃになってるって言うけど、だからこその New Translationでしょう。全部が新規作画だったら新約じゃなくてただのリメイクなわけで
旧絵を見にくいだの古くさいだの嫌々見てたらそりゃつまらん映画だよ新約Zは

でもそうじゃないでしょう。過去の作品を今の富野の価値観で翻訳し直すってところに意味があるんじゃないか。シロッコを倒してバイザーが割れるシーンなんて正にそれを象徴していると思うよ。同じ映像だけど見比べると違いが良くわかる

[ 2010/02/16 02:45 ] [ 編集 ]
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